よりみち日誌

記録しなければ忘れてしまう寄り道にこそ、感動の物語があるのではないでしょうか。

Yorimichi #7:新郷村唯一の信号

2015年7月現在、新郷村には、信号機がひとつしかない。

つまり、2015年7月現在、新郷村には、ひとつだけ信号機がある。


私は本当に運がいい。

日本刀のレプリカの傘を振り回し気味の人や、缶チューハイと濡れ煎餅を貪っている酔っ払いみたいな人達が、決まって私の隣に座る様に感じられる満員電車以外においては、運がいい。


その日も、運良く新郷村唯一の信号機が赤になり、数十秒そこに留まる事ができた。


「少し前まで、この、【しんごう村】には信号がありませんでした」運転席の地元の方が話し始めた。「しかし、村人たちの間で、村の子供達に信号のルールを教えてやらねば、彼らが村から出た時に困るだろう、という話になりました」


なるほど。確かにそれは困る。


「そんな時に、信号が必要な場所が見つかり、村唯一の信号機が設置されたのです。」


先人達の産物で、私達は生きている。

新しい発明も、先人達の耕した土壌から生まれてくる。

信号ひとつにも、後世の同郷者への想いがある。


居酒屋のトイレで時折見かける《親父の小言》の一文が頭をよぎった。

年寄りは敬え。


私は運がいい。

新郷村唯一の信号機が赤になってくれたお陰で、こんな逸話と感慨を得られたのだから。私達の一台前にいた他県ナンバーの車は、黄色の信号を無感情に通り過ぎていった。



新郷村の皆さんは、人口が増え、《村》が《町》になる事を望んでいないという。


それは、新郷村が、《信号待ち》になってしまうからである。




Yorimichi with 「Take five」The Dave Birubeck Quartet

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