よりみち日誌

記録しなければ忘れてしまう寄り道にこそ、感動の物語があるのではないでしょうか。

Yorimichi #12:鎌ケ谷無限loop

「東経140度」

Jack Johnson の「Gone」を聴きながら良い気分で鎌ヶ谷市を歩いていると、道路でそんな表記を見つけた。


北はロシア、南はインドネシアやオーストラリアを通る東経140度。

日本では、栃木県宇都宮市、福島県会津若松市、秋田県大潟村などを通っていると、鎌ヶ谷市のホームページにある。


東経140度かぁ。この延長線上に色んな国があるなんて、普段は想像もしないなぁ…。


そんな時、携帯電話が鳴る。


…!!会社の先輩からだ!!


胃がキリリ…。


もしもし…


電話に出ると、不機嫌そうな先輩の声。


実は私、私情により、昨日から会社を休み、2日間行われる「防火管理講習」なるものを受けに鎌ケ谷まで来ていたのだ。

2日間頂いたお休みに3連休が組み合わさり、繁忙の中5連休してしまっているのだから、その尻拭い状態にある先輩が不機嫌なのも無理はない。


あれやこれやと5分ほど話をすると、また「東経140度」の所に来ていた。



ああ…。


電話を切ってため息をひとつ。


もともと方向オンチだが、電話しながらで集中力を欠いていたのだろう。同じ所をぐるりと回ってしまったようだ。


鎌ケ谷市という体の中をグルグルまわる血液。それが私だ。


鎌ヶ谷市は千葉県の1組織であり、千葉県は日本、ひいては地球という星の1組織。


そんな星達の集合体である太陽系は、実は「マイケル」という名の生き物の1細胞であり、「マイケル」の居る宇宙もまた、「ヤマモト」の1細胞にすぎない。


そしてその「ヤマモト」が居る宇宙は、なんと私の白血球のひとつにすぎないのだ!


大きな世界と小さな世界はループのように結びついている。


そんな中において、私の5連休問題など、なんと些細なことか…。


…という風な事を妄想していたら、気持ちが軽くなってくる。


Jack Johnson の「Gone」を聴きながら良い気分で歩いていた。


そんな時、携帯電話が鳴る。


…!!会社の先輩からだ!!


胃がキリリ…。


もしもし…


電話に出ると、不機嫌そうな先輩の声…。



Yorimichi with 「Gone 」Jack Johnson


Yorimichi #11:秋葉原のアウトロー



秋葉原にあるアメリカンなバーで、二人組の男達が海外のビールを飲んでいた。

そのテーブルに、目つきの鋭いもう一人の若い男が合流する。

その男は、すでにビールを飲み交わしていた二人に軽く会釈をすると「隣の店にヤツらがいます」と小さな声で言った。


私は偶然、そんな三人組の近くのテーブルで、この店の人気だという、レモンビールを飲んでいた。


「…そうか…。やつら、2人、か?」

「はい。2人です。」


男達は顔を見合わせた。



途中から入ってきた若い男は、細身で長身。切れ長の目は、夜行性の肉食獣を彷彿させる。


私からよく見える角度に座っている男は、全てを見透かす水晶の様な丸い目をしている。中肉中背でおそらく最年長。

たくし上げたシャツからむき出しになっている筋肉をみると、それが素人のモノでない、日々鍛錬された代物であることが分かる。


もう一人の男の顔は、私からは見えない。


「この先のメイドカフェの女が、仲介役のようです」

「…仲介役?」

水晶まなこの男がタバコに火をつけながら怪訝そうな顔で聞き直すと、顔の見えない男が答えた。

「運び屋ですよ、そいつは」

水晶まなこの男は溜息と一緒に煙を吐き出し、「若いだろうに親不孝な…」と呟いた。


しばらく後、私がレモンビールを半分程飲んだ頃、切れ長まなこの肉食獣が「動きがあったようです」と言った。

よく見ると、耳にイヤホンをつけている。そこから何らかの情報が入ったのだろう。

「動いたか…」

顔の見えない男は静かに腰を上げた。

「お前達…」

最年長と見られる水晶まなこが改まって話し出す。

「この酒は、俺たちが交わす最後の酒かもしれん。そうはなりたくないがな…。」

2人は黙って、飲みかけのビール瓶を見つめている。

「くれぐれも命に気をつけろ。こんな事言うべきじゃないんだろうが、俺はお前らに、生きて欲しいんだ」

3人の男達は少し切なげに微笑み合いながら乾杯を交わし、ビールを空けた。

そして、颯爽と店の外へ飛び出して行ったのだった。


…という話だったら、あの3人組はおそらく警察の方か、諜報員か…。


だが、現実はこうだった。


秋葉原にあるアメリカンなバーで、二人組の男達が海外のビールを飲んでいた。

そのテーブルに、目つきのいやらしいもう一人の若い男が合流する。

その男は、すでにビールを飲み交わしていた二人に深々とお辞儀をすると「隣の店にかわい子ちゃんがいます」と大きな声で言った。


私は偶然、そんな三人組の近くのテーブルで、この店の人気だという、レモンビールを飲んでいた。


「…マジか…!何人組?」


「2人組みです。」


男達は顔を見合わせた。が、ナンパする度胸が足りなかったのか、その話はそこで終了。


途中から入ってきた若い男は、細身で長身。細長いの目は、新幹線の100系を彷彿させる。


逆に、新幹線0系の様な、丸い目をしている最も年配と見える男は、ずんぐりむっくり。


↓新幹線100系と0系



たくし上げたシャツからむき出しになっている脂肪をみると、それが健康なモノでない、日々の不節制の代物であることが分かる。


もう一人の男の顔は、私からは見えない。


「この先のメイドカフェの女超かわいいんすよ!チューしたいっす!!」

「…ちゅう?」

目の丸い新幹線0系の男がタバコに火をつけながらいかにも下衆な顔で聞き直すと、顔の見えない男が答えた。

「メイド好きなんですよ、こいつは」

0系は息を荒くしながら煙を吐き出し、「若いのにいい趣味してるな!!」と叫んだ。


しばらく後、私がレモンビールを半分程飲んだ頃、細長まなこの新幹線100系が「この時間もやってるメイドカフェがありました」と言った。

よく見ると、手にスマホを持っている。そこから何らかの情報を入手したのだろう。

「あったか!!ガールズバーじゃねえよな!?」

顔の見えない男は勢いよく腰を上げた。

「お前達…」

最年長と見られる0系が改まって話し出す。

「お前達が結婚したらそうそうこんなに飲みには行けなくなるぞ。そうはなりたくないがな…。」

2人はヘラヘラ笑いながら、飲みかけのビール瓶をプラプラさせている。

「くれぐれもカミさんには気をつけろ。こんな事言うべきじゃないんだろうが、俺はお前らと、ずーっと一緒にこんな感じでいたいの!」

3人の男達はいやらしくにやけながら乾杯を交わし、ビールを空けた。

そして、颯爽と店の外へ飛び出して行ったのだった。


そんな光景を、冒頭の様な感じに見せてしまう雰囲気のあるお店、秋葉原の、cafe & music bar《PLAYER》 に寄り道してました。


Yorimichi with 「Misery」 Maroon5

Yorimichi #10:軽井沢と静寂の車内

小学校時代の話。


朝から放課後まで、いっつも一緒に遊んでいた友達がいた。


その子は、どこかから転校してきた子で、よく笑う子だった。


いっつも一緒だったので、五年生になった時、同じ運動系のクラブ活動に入った。


週1回のクラブ活動ではあったが、私達は一生懸命練習した。


そのうち、クラブ活動の先生から、「2か月後の日曜日に、隣町の小学校と試合をする」と通達があった。


私達は必ず一緒に試合に出て、必ず二人で活躍して、必ず勝とう、と約束をした。


それから暫く後、試合まであとひと月足らずという時、父の仕事の都合上、私の転校が決まる。


転校の日取りは、約束の試合の日だった。


引越しの経験はそれまでもあった。私は転勤族の家庭で育ったのだ。

私は、転校をクラスメイトに伝える事が、本当に嫌だった。


この子はもうすぐいなくなっちゃう、と特別扱いされてしまう事。


特別じゃない日常が、いつも一緒にいて当たり前という日常が、とっても大切なんだ。

そんな日常にいつまでも居たいと思っているのに、そこから外されてしまう事。


それが嫌だった。


担任の先生が転校の数日前に、みんなの前で私の転校を発表するまで、私はクラスの誰にも引っ越す事を話せなかった。

もちろん、一緒に試合で勝とうと約束していたその子にも。


担任の先生が淡々と私の転校を告げるその傍らに私は立っていた。

後ろの方の席に座るその子と目が合った。

目を丸くして、信じられない、というような顔つきだった。その表情は、今でも鮮明に覚えている。


私は友達を裏切ってしまった。


その後数日間は、悲しみに打ちひしがれながら、ひっそりと過ごしてしまった。


そして引っ越し当日の日曜日。

私達家族は、ご近所の皆様の温かいお見送りを受けながら、出発の準備を進めていた。


(もうすぐ試合が始まるな。あの子、活躍できるかな…)


(今頃試合中だな。勝てるかな…)


家族が荷作りをしている間も、気が気ではなかった。


そろそろ出発という時である。


「お友達が来てくれたよ」

近所のおばさんが私を呼んだ。


え?


振り返ると、今試合中の筈のその子が立っている。


私は驚いて、混乱して、その子のもとへ駆け寄った。


「試合は!?どうしたの!?」

「休んじゃった」

その子はいたずらっぽく笑った。

「…!…何で…??」

私が聞くとその子は、何でそんな事を聞くのかというふうな目を真っ直ぐ私に向け、

「だって2人で一緒っていう約束だったじゃん」

と言った。


はいこれ、とプレゼントをくれた。


引っ越しても忘れない事。私達以上の友達を作らない事。たくさん文通する事。

新しい約束を取り交わし、私たちはさよならをした。


父が運転席に座る車に乗り込む。

ご近所の人達の中に、その子がいる。

わたしは泣きそうなのに、その子はニコニコしている。

悔しいので泣くのを何とか堪える。


ばいばーい!!


走り出す車から身を乗り出し、手を振る。

あの子、ずっとニコニコしてる。泣かないなあ。なんて思いながら、目が熱くなるのを感じる。


車の中で、もらったプレゼントを開けた。

それは、オルゴールだった。

ぜんまいを回すと、カントリーロードのメロディーに合わせ、牧場の熊さんがくるくる回るオルゴール。




カントリーロードのメロディーが車内に流れ、オルゴールが動き出した瞬間、最大限の我慢でせき止めていた涙が、決壊したダムの様に溢れてきた。


ありがとう、大事にするね。

友達になれて良かったよ。


その子と当たり前のように過ごしてきた日常が、頭の中に浮かんでは消える。

その日常は、私にとって《特別》になったのだ。


車内は、カントリーロードと私の泣き声で占拠されていた。

普段おちゃらけて賑やかな父は、黙ってハンドルを握っている。

普段はおせっかいでお喋りな母も、いたずらばかりの弟達も、静かに、おとなしく前を向いている。


いつもの我が家だったら有り得ない、静寂の車中で、私は涙を流し続けた。


いつになく真剣な表情で運転中の父が一言、「いい友達を持ったな」

と言った。


私は泣きながら頷いた。



軽井沢でビールを飲んでいたら、そんな思い出とカントリーロードが心に流れたのです。




Yorimichi with 「Take Me Home, Country Roads」John Denver