よりみち日誌

記録しなければ忘れてしまう寄り道にこそ、感動の物語があるのではないでしょうか。

Yorimichi #21 憎悪と悔恨の2611




「…残念ながら、今回は駄目でした…」


横にいる初老の男性はそう切り出すと、“残念ながら今回は駄目だった理由” を、私に丁寧に説明してくれた。


(…駄目だったんだ…。)


予想以上に私は落ち込んだ。


その落ち込みはやがて後悔となり、最後には憎悪へと変貌した。


2611。


憎きこの数列…、2611。


この4桁と出会ってしまったのは、2ヶ月ほど前。


あの最悪な出会いは、それ以来今に至るまで、私の頭の中から片時も離れることはない。

お気に入りの服に付いて取れないシミのように、不愉快な異物として脳裏にこびりついている。


あれは、いつも通りの平日、いつも通りのメンバーで、いつも通りのランチタイムを過ごしていた時だった。


なんとな〜く財布から自動車の運転免許証をだして、なんとな〜く免許の有効期限を見た時にその数列と出会ってしまった。


その運転免許証の有効期限が、私のいつも通りの慎ましい時間を破壊したのだ。


有効期限 平成26年11月。


…ん…?


26年?11月…?


2611?


今は…?

2710…?


凍りつくランチタイムメンバー。

ほっぺたをつねる私。

お願い、これは夢だよね。

夢じゃないなら、今年は平成26年だよね…?


周りの顔つきを見て、事態が良くない事を確信する。


引越した私の新住所に、免許更新の通達が来なかったことは、言い訳にならないこのご時世。


不幸中の幸い、ギリギリ失効1年を過ぎていなかったので、私は仮免状態という事だった。


教習所に問い合わせたら、仮免からの受講コストは20万程度との事。


私は免許センターでの一発試験という寄り道を選択した。


学科試験は合格。今日は技能試験。


冒頭の一幕は、技能試験終了時の事で、久しぶりに皆さんに聞いてもらいたいお話なのです。




「…残念ながら、今回は駄目でした…」


横にいる初老の男性はそう切り出すと、“残念ながら今回は駄目だった理由”を、私に丁寧に説明してくれた。


(…駄目だったんだ…。)


予想以上に私は落ち込んだ。


「そもそもこの試験は、運転技術を見る試験というよりは、安全な運転を…」


(駄目だったんだ…なんで免許の期限にもっと早く気がつかなかったんだろう…)


「あなたの運転は目視も甘く、車を避ける際にウィンカーも出さず…」


(…ちくしょう…。…ちくしょーー!!)


再試験はクリスマスイヴです。


271224


が、素敵な日になりますように…。



Yorimichi with 「仮免許証」幕張運転免許センター

Yorimichi #20:六本木山椒大夫高瀬舟

どこかから、チャリーン、と、小銭が落ちる音が聞こえてきた。


あの音は、十円だろうか、百円だろうか。

1円や5円ではなさそうだ。だが、500円ほど重厚な音色でもない。


長袖の人が増えてきた東京の昼下がり。


夏が終わろうとしている。


今年の暑さに、頭の天辺から五臓六腑、血肉心神に至る全てをやられてしまった私は、自己回復のために小説を読み漁る事にした。


まずは森鷗外【山椒大夫 高瀬舟】。

昔読んだはずだが、すっかり内容を忘れている。

六本木のカフェで全てを読み終えた。


本を閉じた瞬間、六本木の雑踏が私を取り囲む。

それまでは無機質に見えていた周囲の人々が、思慮深く、奥ゆかしい人間に見えてくるのは何故だろう。


日常の合間、寄り道感覚で短編小説を捲るのもいいかもしれない。

これで少しずつ、猛暑の中で蓄積した疲労を溶かしていこう…。


早速古本屋で、森鷗外【阿部一族 舞姫 】を購入した。

一冊100円(税別)。


100円(税別)でできるリフレッシュ。


100円(税別)も、大切にしなきゃいけませんね^ ^


Yorimichi with「山椒大夫 高瀬舟」森鷗外


Yorimichi #19:流山と浜松町の思い込み

「いらっしゃいやせー!!」


市川に住んでいた時に大好きだったお店を流山市で見つけ、吸い寄せられるように入店。

扉を開けると威勢の良い声が迎えてくれた。


声の主は、調理場の中で重そうな中華鍋を豪快に振るっている。


「何名様っスか!?…こちらへどうぞっ!」と、こちらも威勢良く案内してくれた色黒の若い店員を含め、店には合計3名のスタッフがいた。


「店長!!」私を案内してくれた色黒店員が、緊張した面持ちのもうひとりを連れて調理場へ入る。


店は私しかいないので、声が丸聞こえだ。


「この人、今日から入った新入りさんっス!」

「…面接したから知ってるよ!!」


新人は深く頭をさげた。

「よろしくお願いします!!!」


元気な店だ。気持ちがいい。


好物のスーラータンメンの大盛を注文する。

「スーラータンメン大盛っスねー!!」

色黒は私の注文を確認すると、そのまま厨房に入った。どうやら私のスーラータンメンは、色黒さんが作ってくれるようである。

あー、お腹すいた…。


「いらっしゃいやせーー!!」

再び店長の声が店内に響く。

客が入ってきた。小さい子を連れた家族だ。新入りが慣れない手つきで、冷たいジャスミン茶を用意する。


すると突然、調理場から叫び声が聞こえてきた。

「やべーー!!」と色黒の声。

「どうした!?」と店長の声。


「スーラータンメン大盛にすんの忘れたー!!」


…私の注文分だ…。


「なにやってんだよ!?」

「すんません…!!」

「…そんじゃあそれは、2番テーブルに持ってけ!」

「…あ!!…なるほどっスね!!」


全部聞こえているよ…。私の注文したスーラータンメン大盛は、スーラータンメン普通盛を注文した、後からきた家族連れのもとへ行くのだね…。


私が大盛を注文するような、アクティブな人間ではないと思い込んでいたのかな?


思い込み。


浜松町の安くて美味しい蕎麦の名店『蕎麦冷麦 嵯峨谷』の【あじご飯】を、味付けご飯と思い込んでいた私。

注文して出てきた【あじご飯】が、鯵(あじ)ご飯だった時に、思い込みの恐ろしさを感じた私。




あなたも、そんな思い込みをしていたのかな?


そんな思い込みをしていたかもしれない、色黒の可愛いハワイアンな女の子の店員は、しばらくしてから「たいへんお待たせしましたー!スーラータンメンの大盛っス!」と私の注文分を持ってきてくれた。

健康的に焼けた長い脚が、白いエプロンからすらりと伸びている。


黒縁眼鏡をかけた、とっても綺麗で華奢な女店長さんは、ジャスミン茶の注ぎ足しをしてくれながら「今日も暑いですね」と声をかけてくれた。色白の肌に、黒縁が映えている。


中肉中背、年配男性の新入りさんは、慣れない手つきながら、愛想良くお会計をしてくれた。


Yorimichi with 「カム・ゲット・イット・ベイ」Pharrell Williams