よりみち日誌

記録しなければ忘れてしまう寄り道にこそ、感動の物語があるのではないでしょうか。

Yorimichi #13:奥山田の滝と打ち水マン

「…一体誰が着るってんだ…?こんなもん…」


梅雨明け宣言が出されたこの日は、午前中から30度を優に超える猛暑日。


暑さのピークを迎えんとする午後1時、私を含む14人の男女は、机上に置かれる4色のコスチュームを囲み立ち尽くしていた。


ここは、とあるマンションの中庭。

1時間後の午後2時より、年に一度の恒例行事「打ち水大作戦」が開催される。

私達14人は、本年度において晴れて立候補もしくは抽選により選出された、マンションの理事会メンバーである。


中庭随所にビニールプールを用意し、焼け石に水などと無粋な事を言わず水を撒き、地球を少しでも涼しくしよう、という素晴らしい趣旨のイベントだが、実情は子供達の壮絶なる水合戦の、まさに戦場。


「…こんなん着たら体感温度10度近く上がるんじゃないですか?」

理事会渉外担当の男性が言う。

「…かなり使い古されてるな…。手のところは破れてるぞ…」

理事会駐車場担当がコスチュームを手に取った。

4色のコスチュームとセットで「打ち水マン」というタスキが置かれている。


「…打ち水マン…」

小さい声で呟いたのは、書記担当の女性。


マンションの管理会社が気を利かせて用意したこの戦隊モノのコスチュームは、赤、青、緑、ピンクの4色。男性3名と女性1人のパーティが想定されていた。


そしてその中のひとつを、私が着る事になる。




半ベソで着替え、四人で外にでる。

「みんなー!打ち水マンが来てくれたよー!」

という管理人の声。

それまで水鉄砲の乱打戦に興じていた数十人の子供達が、一斉にこちらを向き、数秒間辺りがしんとなる。

そして次の瞬間、手に銃を携えた小さな戦士達が、狂喜乱舞してこちらに攻め込んできた。


「うおおおおおお…」

「きゃーーーーーーー…」

「うひゃひゃひゃひゃひゃー…」


瞬く間にコスチュームが水浸しになっていくのが分かる。


私は、やられていく仲間達を視界で確認しながら、(あの時は涼しかったなあ…)と、ある地での寄り道体験を回想していた。


子供達の雄叫びがだんだん遠くなり、私の頭には、勢い良く流れ落ちる滝の音が響いてきた。



長野、小布施に行った時に、地元の方に勧められて寄り道したのが、高井郡奥山田にある「雷滝」だ。




松川渓谷にあるその滝の別名は、裏見の滝。

その名の通り、雷鳴を轟かせて流れ落ちる滝を、裏側から見る事ができる。


表側から滝を見ると、山の上から轟々と迫ってくる水流のスケールに圧倒され、辺りに立ち込めマイナスイオンに心洗われる。


裏側から見ると、雷滝は、また違った表情を見せてくれる。


小さな洞窟のような空間から《裏見の滝》を鑑賞すると、あっという間に上から下へと流れ落ちる滝の断片を、間近で体感する事ができる。


岸壁の額縁から雷滝をみると、滝なるものが、水が流れ落ちるほんの一瞬の集積から成り立っている事を痛感する。


滝とは、永い永い水の旅路の、刹那的な断片の集積である。

裏側に周らねば、物事の本質は見えてこない。



打ち水マンの裏側での我が回想は、突如として肛門を襲った衝撃によりかき消された。

「こいつの弱点見つけたぞー!!ケツだーー!」

雷滝ほどではないが、なかなかの水力をもつ水鉄砲の応酬が、私の顔面と肛門近辺を照準に始まった。


コスチュームは水を吸うと体に吸い付く。

顔面のマスクがぴったりと口に吸着し、呼吸がままならない。


もうこれ以上は耐えられない、そう思った時、私の頭の中で何かが弾けた。

私は雄叫びを上げながら、自らビニールプールに飛び込んだ。


ばっしゃーーん!!


きょとんとした視線を一身に集め、私は周囲の冷笑をかった。


子供達も冷たいもので、こいつはサムいとばかりに私への攻撃を止め、別の対象へと銃口の向きを変えたのだった。


なぜこんな事をしてしまったのだろうか…。


全て知り尽くしていると思い込んでいる “自分自身の裏側” が、案外一番、見えていなかったりして…。


Yorimichi with 「MIND YOUR STEP!」SNAIL RAMP


×

非ログインユーザーとして返信する

あと 2000文字

※は必須項目です。